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 ■策謀■



 ――ちょろいもんだな。
 ネズミは吹奏楽部の部室を出て、階段を下りながら思った。
 所詮、ヤンキーどもは頭を使うことはまるでダメ。ちょっと調子に乗せればこちらの言いなりだ。 そして、いくらケンカが強いといったって、科学の力には勝てない。
 踊り場で振り返り、部室の扉を見る。
 「――ま、もうじき楽しいことが起こりますから……待っててくださいよ、サドさん」
 小さくそう言い、ネズミは一階まで駆け下りた。愉快で、そうしなければいられない気分だった。


 馬路須加女学園を出ると、ネズミは最寄の駅へ向かった。
 下校時刻のため、駅は馬路須加女学園の生徒たちで混雑していた。ネズミは混雑を避けて先頭車両に乗ると、次の駅で降りた。
 振り返り、だれもついて来ていないことを確認してから、改札内にあるコインロッカーからバッグを取り出し、トイレに入る。
 パーカー、制服、黒タイツを脱ぐ。そしてバッグの中から取り出した、白いブラウスと紺のプリーツスカート、グレーのベストを着た。足元は黒のハイソックス。ローファーはそのままにした。さすがにそこまで気を配る者はいないだろう。
 次にネズミは、手鏡を見ながらゴムで髪の毛をツインテールにまとめた。何度もした作業で、目をつむっていてもできるくらい手馴れていた。
 最後の仕上げにメガネをかける。『黒執事』のクロードと同じ下縁メガネだ。
 トイレを出て洗面台の鏡を見ると、そこにはもう「ネズミ」はいなかった。ヤンキーなどいない、普通の高校に通う清純そうな女子高生がいた。
 再び電車に乗り、車窓の景色を眺めながら、ネズミは考える。
 今のところ、今度の計画はそこそこ順調にいっている。以前、ネズミが考えた計画――矢場久根とマジ女を戦わせる――は、失敗に終わった。
 大島優子が病床に臥せっていたのに、その代わりとして前田の存在があったことも大きいが、そもそも矢場久根を見込みすぎた。矢場久根はネズミの想像以上に弱かった。
 ネズミの計画の目的は、馬路須加女学園の頂点に、暴力以外の方法で立つことだ。物事の解決手段イコール暴力という単細胞なヤンキーどもをひれ伏させたかった。
 ネズミは中学生のころにCS放送で見た、黒澤明の『用心棒』という映画を参考にした。ひとつの町で敵対する二つの組織を、主人公が策略を巡らせて戦わせるというストーリーだ。ネズミはこのモノクロ映画にハマった。基本のプロットも面白かったが、三船敏郎と仲代達矢の関係に大いにも惹かれるものがあり、数々の妄想のネタにした。
 ネズミは小学生のころからイジメを受け続けてきた。アニメと特撮が好きなだけでオタクだとバカにされ、暴力を含むイジメの標的になった。ただ好きなものを好きだと言っているだけなのに、なぜ自分がこんな理不尽な暴力に晒されなければいけないのか、ネズミは自分の生きる世界が嫌いになり、ますます二次元の世界にのめりこんだ。
 ネズミは暴力を嫌悪している。その暴力を日常的に使うヤンキーどもも嫌いだ。あいつらは脳が空っぽだからすぐに暴力で解決しようとする。暴力にあふれたマンガや映画しか楽しもうとしない。そしてそれらでは、ヤンキーどもは「本当はいい人」として描かれる。仲間や惚れた女のためなら命を惜しまなかったりするからだ。くだらない。本当に優しい人間なら、そもそも人に暴力をふるわない。優しさとは、自分と無縁な人間に対しても発揮されるものではないのか。ヤンキーが更正する話もバカらしい。更正したところで、今までそいつがやってきたことはチャラにはならない。勝手に人をイジメて、勝手に暴力をふるって、勝手に更正する。やつらにとってイジメは「ヤンチャしていた青春時代の一ページ」として、いい思い出にすらなるのだろう。被害にあった者は、ずっと忘れない。ずっと、だ。
 そんなバカげたものを読んだり見たりして感動する連中は、バカとしか言いようがない。
 ――ヤンキーなんて、みんな死ねばいいのに。
 毎日、本気でそう思っている。
 あんなやつらが世の中からいなくなってもだれも困りはしない。少なくとも学校は平和になる。ビクビクしながらマンガを読んだりイラストを描いたりせずにすむ。
 中学三年になって進路を考えたとき、ネズミはヤンキーの巣窟と言われている馬路須加女学園への進学をあえて選んだ。周りは反対したが、ネズミは頑として自分の思いを貫いた。
 ヤンキーたちに勝つためだ。
 いじめられ続け、そしてじっとそれに耐えてきたネズミは、このまま大人になりたくなかった。普通の高校に行ったところで、いじめられない保証はない。だったら、より厳しい場所に自ら飛び込み、逆にやつらを牛耳ってやる。それも、暴力を使わずに。だとしたら、それは普通の高校ではなく、圧倒的に暴力的な人間が集まっている場所でなければ面白くない。
 それができれば、自分は変われる。自分に自信を持ち、これから先の人生で胸を張って生きられる。
 人は、なにかを成し遂げて成長していくものだ。
 ネズミは電車を乗り換えた。念のため、そのときも周囲には気を配った。ネズミをつけている者はいなかった。
 目的地――亜理絵根女子高等学校までは、もうすぐだった。



【つづく】

じゃんけん選抜回顧。

 23, 2010 06:45

 さて、狂乱の一日が過ぎ、ちょっと冷静になれた。

 スポーツ新聞は4誌手に入れた。それぞれの新聞社の芸能担当に、ヲタがいるかいないかがわかって面白い。記事は小さかったが、内田眞由美の写真がもっとも大きく載っていたデイリースポーツが良かった。報知が二面も使って特集していたのには驚き。

 内田眞由美が勝った瞬間のことを思い返すと、今でも涙が出るくらい嬉しいが、それはそれとして、あのイベントそのものに関して思ったことを書いておく。

 南海キャンデイーズの山里亮太が登場したとき、武道館ではブーイングが起きた。
 おれは、同じヲタとして恥ずかしかったよ。
 彼は仕事で来ている。運営が、ジャッジをするのに相応しいと考えたからだろう。それをブーイングで迎えるとは何事か。
 彼は芸能界で、もっともヲタに近いポジションにいる(もしくは、そう認識されている)。だから、ブーイングをした連中は彼に嫉妬しているのだろう。みっともない。じゃんけんをする前にメンバーの拳を合わせる際、誘導するために手首をつかんだ山里にもブーイングが浴びせられた。みっともない。「おれが触れることができないのに、なんであんなキモい奴が!!!」とでも思っているのか? みっともない。
 もっとも近い位置で勝敗の行方を見守る彼は孤独だっただろう。観客席で感情を露わに、ああでもないこうでもないと語れるおれよりも辛かったと思う。ひとつひとつの勝負を語りたくてうずうずしていたのではないか。けれども彼は仕事に徹し、淡々とジャッジを務めた。
 以前の話だが、山里が「関係者」として劇場公演を見ていたことに関して批判されるのは仕方なかったと思う。大きなコンサートならともかく、小さな小屋で貴重な一席を苦労なく手に入れるのはよくない。「そういうの、いくない」。けど、彼は反省してラジオでも詫びを入れていた。少し浮かれる程度のことはだれにでもある。
 「特等席」には「特等席」ならではの苦悩があるのだ。

 それから、進行について。
 ルール説明の時点では、勝負の前にマイクパフォーマンスがあるような感じだったが、実際にはなにもなかった。もしやっていたら、とてもあの時間で収まらなかっただろうから、なくて正解だとは思う。でも、せっかく大舞台に立っているメンバーの声を聞けなかったのは残念だ。選抜上位組は勝負のあとに、ちょっとしたインタビューみたいなのがあったけど、やるのなら全員にするべき。

 少しだけ気になったのは、その選抜上位組の余裕感。だれとは言わないが、負けてヘラヘラしているメンバーがいた。これは対戦相手に失礼だろう。100%運で決まると言っても、ここしかチャンスのないメンバーはたくさんいる。彼女たちにとっては生きるか死ぬかの修羅場なのだ。負けて笑っているメンバーは「どうせ私は次の選抜に選ばれるし」とでも思っていたのだろうか。そんな気持ちでいたら、脚をすくわれるよ。
 一方、これは好意的に解釈することもできる。「私に勝ったんだからがんばってね。このチャンスを生かして上っていきなさい」と。あるいは『カイジ』の限定じゃんけんで序盤に負けた参加者が照れて笑ってしまうといった感じかもしれない(なんだ、そのたとえ)。どう解釈するかは個人の自由なので、これ以上言及はしない。

 あと、イベントそのものとは関係ないが、新曲のPVが残酷描写満載の点について。
 おれは予てから、残酷描写の規制には反対してきたし(でも個人的には好きではない)、アイドルのPVであえてああいうことをしたいのはわからないでもない。
 でも「どこかで見た感」がありすぎるし(さすがは『告白』でコカ・コーラのCMをパクリまくった中島哲也だw)、テレビや街角で不意にあれを見せられるのは勘弁してほしい。
 残酷描写のある作品は、それを見たいと思う人が見る分にはなんの問題もない。だが、見たくないと思う人もたくさんいるのだ。ああいう表現をする人はその一線を越えてはいけない。おれが残酷描写のある作品(ポルノも含む)を規制してもいいと思う唯一のラインはそこだ。見たくない人が見ずにすむゾーニングはきっちりするべき。
 AKBのPVはテレビでも街角でも流されるだろう。そのとき、あんなものを不意に見せられるのは精神的苦痛である。これは残酷描写が大好きな人たちにとってもよくないと思う。こういうものをきっかけに規制が強まっていく可能性があるからだ。
 個人的には、無機質なアイドルが好きではないので(だから音楽的にすばらしくても、おれはPerfumeにハマらないのか)、このPVは嫌い。

 とはいえ、イベント自体はとても楽しいものだった。おれにとって、このじゃんけん大会は、水島新司の『大甲子園』である。
 水島作品の別々のキャラクターが一同に介し、戦う。ちがう世界にいたキャラクターがツーショットになるだけでもアガるのだ。
 AKBという世界には、またいくつもの世界がある。それらはときどきは交わるが、大抵は同じ顔ぶればかりだ。けど、じゃんけん大会はその世界の垣根を取っ払い、ごちゃまぜにした。普段はありえないツーショットの数々を見られるだけでも、この大会の意義がある。
 じゃんけん選抜がまた開催されるかはわからないけど、第二回目があればぜひとも生で見てみたい。
 内田眞由美を初めて意識したのは『AKB歌劇団』というお芝居を見に行ってからだ。小さい体でエネルギッシュに踊る女の子が気になって、隣に座っていた沙織さん(ぼくのサイト『濡れ娘。』でモデルをしていただいた。熱心なAKBファンで、ぼくのAKB知識の80%は沙織さんから教えてもらったもの)に訊ねて名前を教えてもらった。
 観劇後、メンバー本人からの生写真プレゼントがあったので、ぼくは内田眞由美を選んだ。彼女の手には、たくさんの写真があった。人気のメンバーと同じだけ用意されていたのだろうが、それらがすべてハケる様子は残念ながらなく、ぼくが写真をくださいと言ったときも「え。私のを?」という表情をした。
 はっきり言おう。内田眞由美は小さくてぽっちゃりしている。ドラミちゃんと言われることもあるくらいだ。選抜に選ばれたこともなく、テレビにもほとんど出ないし、出たとしてもしゃべっているところは見たことがない。中野のアイドルグッズ屋に行けば、生写真は50円のものばかり。贔屓目に見ても「干されメンバー」と言われることに反論できなかった。
 もちろん、ぼく自身もそれでいいとは思わなかったが、なにをどうできるわけでもない。せいぜい握手会で十秒程度お話をするくらいがいいところだ。
 まあ、ファンというのは、そういうものであるべきだと思ってはいるけれど。

 じゃんけん選抜大会の話が出たとき、直感的に思った。内田眞由美が選抜に入るチャンスは、今のところこれしかない。そして選抜に入るとしたら、センターまで上りつめてほしい、と。
 公式ガイドブックのインタビューで、全メンバー51人中、彼女だけがセンターがいいと答えていた。

 今日、ぼくは武道館に行った。ライブで内田眞由美を応援したかった。以前買っておいた、内田眞由美のTシャツを着た。願掛けのつもりだった。
 それが効いたのか(笑)、順調に勝ち続けた彼女はついに決勝戦で石田晴香と対決した。
 そのとき、場内には「はるきゃん」コールが起きた。石田晴香は大手プロダクションのホリプロでアンダーガールズにもナットウエンジェルZにも入っている人気メンバー。一方、内田眞由美は弱小事務所のムーサ所属でアンダーガールズにさえ入ったことがない。人気に差があるのは当然だった。
 仕方ないと思いつつも、ぼくは悔しかった。
 「うっちー、絶対勝てよ。このコールをしているやつらを黙らせてやれ」
 そして運命のじゃんけんに、内田眞由美は勝った。
 AKBで、まったくといっていいほど人気のない内田眞由美が勝ったのだ。
 運だけかもしれない。だが、運はなにより大切だ。
 センターを獲りたいと言っていた彼女なら、覚悟完了しているはずだ。立派につとめてくれると思う。

 内田眞由美の人生の頂点は、ここではない。あってはならない。
 これからが勝負だ。運で勝ち取ったチャンスをモノにし、これからもっとたくさんの人に応援されるようになってほしい。

 自宅で酒を飲むことはほとんどないけど、今夜はうっちーのために祝杯をあげたい。 
 ■特訓2-1■




 六回目の階段往復を終えたときこそ、本当に限界がきたとヲタは思った。
 ひそかに自信を持っている、すらっとした長い脚のふくらはぎと腿は筋肉痛でじんじんと痛んでいた。もし、ここに校医のキケンがいたらドクターストップ間違いなしの、正真正銘の限界だった。自分にしてはよくやったほうだ。決して、自分の気持ちが折れたわけではない。もう体がついてこないのだ。この状態になったら、誰だってギブアップするはず。いや、しなければいけない。でなければ、明日の特訓だってできない。それどころか、この痛みが続くようであれば、特訓だって中止にしたほうがいいだろう。体を壊すためにやっているのではないのだから。そう。たったの七秒しか懸垂ができないほど体力のない自分が、一時の感情に任せて特訓をしようなどと思いついてしまったのがそもそものまちがいなのだ。やるのなら、もっと段階を――たとえばランニングから始めるとか――踏むべきだった。
 などと考えたヲタだが、心のどこかでその気持ちに対立する、もう一人の自分がいることにも気づいた。
 その自分はこう言っていた。
 ――言い訳ばっかしてんじゃねぇよ。
 だが、ヲタはその小さな声を聞かなかったことにした。
 石畳の上に横向きに転がると、砂が頬に付いたが掃う気力も残っていない。はあはあという自分の息と、どこかで飛んでいるヘリコプターの音しか聞こえない。夏ではないのに体操着のシャツはぐしょ濡れで肌に張り付き、ヲタはプリクラと戦ったときの雨を思い出した。
 少し遅れて、だるまがヲタの脇にやってきて座り込んだ。「これで……なん、回……目……。やったっ……け……」
 「六回……目だ、よ……。覚えてろよ、ちゃん……と……」
 「そっか……ほな、あと……四回、や、な……」
 ヲタはだるまを見上げた。そこには本当に鬼のような顔をしただるまがこちらを見つめていた。
 「ダメ……だ、よ……」ヲタは目を閉じ、仰向けに転がった。「今日……はもう……、脚、動かね……」
 「動かんと思う、から……動かへん……ねん」
 「ちがうよ……そういう、精神、論……じゃなく、て、マジで、動かねぇん……だよ……」
 「そしたら、今日は、これで……終わりに、するか……」
 ヲタは心底ほっとした。だるまが鬼に見えたのは錯覚だったようだ。
 「ああ、そう、しよう、ぜ……」
 「残り、の四回は……明日、やる分にプラスっちゅう、こと、で……」
 ヲタは電撃を食らったように跳ね起きた。「ちょっ……どういうことだっ」
 「なんや、まだ、起き上がる気力、残っとるや……ないか」
 だるまは鬼ではなかった。狡猾な狐だった。
 「一週間で、合計七十回の、階段昇降ってのは……決めたことや。そんなら、そのとおりにせな、あかんで……」
 「そういう、問題じゃ、ねぇだろ……」
 「そういう問題なんやっ」
 だるまの突然の大声が、狭い境内に響いた。
 ヲタは口をつぐんだ。
 「本気……なんやろ? 強くなりたいんやろ?」
 だるまは、優しい母の顔になっていた。
 そう。強くなりたい。それは本気だ。
 けど、体が悲鳴を上げている。それも本当だ。
 そしてそれを理由に、言い訳で理論武装していることも――。
 だるまが言うこともわかる。自分だって逃げたくない。それでもこの痛みは、体がこれ以上の運動に耐えられないことを教えてくれているのだ。
 「――ええか。限界なんてないんや。あるとしたら、それは心や。おまえのその弱い心や。いま、限界と言ってるのは体やのうて、おまえや」
 「そうじゃ、ねぇ、よ……。マジで痛てぇんだ、って」
 「痛くないケンカなんてないで」
 「そういう意味じゃ、ねえ……」
 「同じや」だるまはきっぱりと言い切った。「あつ姐がなんで強いかわかるか。技術的なことだけやない。引かへんからや。勝つまで引かへん強さを、あつ姐は持っとるんや。強いか弱いかってことは、最終的にはそれだけや」
 ヲタは言い返せなかった。
 「おまえが特訓したいって気持ちになったのはええことや。ある程度までは本気なんやと思う。せやけど、本気なら這ってでもやり通せや。それでこそ……女やろ」
 一陣の風が、強く吹き、ヲタの中のもう一人の自分が大きくなった。
 脚はまだ痛い。ふくらはぎに熱いものを押し付けられているような痛みだ。腿の筋はぴんと引っ張られたように硬い。ジャージの上からそこをさすると不思議なもので、少しは痛みが軽減されていくような気がする。
 ふくらはぎを伸ばし、足首を何度も曲げて、思いっきり筋を伸ばしてみる。筋肉が引っ張られるのがわかり、ツリそうになった。でも、その寸前でやめると気持ちよかった。
 ――言い訳ばっかしてんじゃねぇよ。
 大きな声が聞こえる。
 言い訳だと自覚しているからこそ、その声は存在している。
 だるまは立ち上がり、拝殿の方へと向かった。足取りは重い。右足を痛めたのか、やや引きずるようにしている。朝にはあんな歩き方はしていなかった。
 いたたまれない気持ちになったが、ヲタはなにも言えず、だるまの背中を見ていた。
 拝殿の裏に回っただるまは、やがて2リットルのペットボトルを持って戻ってきた。「チームホルモンの四人と、いつかはまた一緒に暴れたいやろ? そのために、いまお前がするべきはなにか……よう、考えるこっちゃな」
 だるまの差し出したペットボトルを、ヲタは受け取り、飲んだ。温くなっていたが、渇いた体にはこれ以上ないご馳走だった。
 「さ。飲んだら行くで」
 だるまの差し出した手を、ヲタは握った。


 手すりにつかまり、ゆっくりと、ヲタは階段を下った。だるまは急かさず見守ってくれた。
 脚の痛みはまだまだ残っているが、休憩したときよりも楽だった。とはいっても、あくまで比較の問題だが。
 途中、何人もの参拝客とすれちがい、追い越され、そのたびに二人は奇異な目で見られたが、ヲタにはそんなことを構っている余裕はなかった。以前のヲタなら一人一人にガンを飛ばし、からんでいただろう。
 一段降りるたび、または登るたび、下半身のあちこちの関節が笑った。だまるに告げると、普段いかに筋肉を使ってないかっちゅーことや、と言われた。その通りだった。
 この特訓が科学的なのかはわからない。だるまにスポーツクラブのインスタラクターみたいな知識があるとは思えず、自分の経験則で言っているに過ぎないのだろう。
 それでもヲタは続けた。ここでやらなければ、この先もなにも成しえないと悟ったからだ。
 一歩ずつの歩みは小さくとも、終わりに近づく。ヲタの気持ちを支配しているのはそれだけだった。早く終わりたい。早く水を飲みたい。早く寝転がりたい。早く食事をしたい。
 とっくに午前は過ぎていたが、二人は昼食も摂らずに階段の昇り降りだけをしていた。チームホルモンのみんなのことが頭に浮かんだ。きっと今ごろ、またホルモンに食らいついているのだろう。
 ――ホルモン食いてぇ……。
 ヲタはぽつりと思った。
 九回目の往復が終わると、だるまが鳥居の柱にもたれかかって言った。「まだ一本残っとるけど、このへんで飯にしようや」
 「――助かる、ぜ……」
 泣き言を口にはしなかったが、体は限界の限界だった。脚はもちろん、体を支えていた腕も痛んできた。アンメルツのプールがあったら浸かりたいくらい、全身の筋肉が疲労している。
 だが、ヲタは泣き言はもう言わなかった。
 朝、ここに来る前にコンビニで買出しをしておいたおにぎりを食べた。
 だるまはおにぎりと手羽先を両手に持ち、交互に引きちぎるようにして食べていた。それは食べるというよりは、貪るという表現のほうが近かった。
 「なんちゅう喰い方してんだ、おめぇは」
 「肉はワイルドに喰うと、うまいんや」
 「そんなわけあるかよ」
 「ほんまや。お前もやってみぃ……」だるまが食べかけの手羽先を差し出してきた。
 「――新しいのねぇのか」ヲタは顔を顰めた。「大体おめえ、いつも制服の中から出してっけど、汚ねぇと思わねぇのか?」
 「ちゃんとポケットにしまってるで。ほら、食べてみ」
 「そういう問題じゃねぇんだよ……ったく、仕方ねえな」ヲタは手羽先を受け取り、だるまの真似をして食べてみた。引っ張られた肉がちぎれる感触は、たしかに旨みを増している気がする。
 ヲタはだるまをチラッと見た。
 「な。うまいやろ」だるまは人懐こそうな笑顔になった。「それは全部食ってええで。オレはまだあるから……」
 だるまのセーラー服の胸元から、再び手羽先が現れた。
 ヲタは鼻で笑って、「四次元ポケットかっつーの。そういや、体型もちょっと似てるし」
 「オレがドラえもんなら、おまえはのび太やな……。あ、そういや、ほんまにのび太っぽいな、おまえ」
 「おれのどこがのび太だよ」
 「言わずもがなやんか。『ドラえもん』のキャラに当てはめていったら、おまえはのび太以外にないで」
 「まあいいや。のび太だって、たまには活躍するからな」
 食事を終えた二人は少し休憩すると、特訓を再開した。
 ヲタはだるまに、様々なトレーニング方法を教わった。腕立て伏せはたった二回しかできなかった。腹筋は背中が地面についている時間のほうが長かった。ペットボトルをダンベル代わりに使ったときは、すぐに二の腕の裏側が引きつるように痛んだ。スクワットでは太ももが悲鳴を上げた。
 だるまは境内の柵を使ったトレーニングも教えてくれた。脚を引っ掛けて屈伸をしたり、腹筋や背筋を鍛える方法を、ヲタは初めて知った。できないトレーニングも多かったが……。
 階段地獄で痛めつけられた体では、だるまの要求に応えることは無理だった。先にトレーニングをやるべきだったのではと思いつつ、ヲタはそれでも精一杯やった。弱音は一切吐かず、筋力の限り、がんばった。結果は伴わなかったが、いまの百パーセントを出し切った。
 だるまにもそれは伝わったのだろう。ヲタが規定の回数までいかなくても、だるまは叱らなかった。
 二時間が経過し、だるまが言った。「よし、今日はこんなもんにしとくで。お疲れさんや」
 体のあちこちが痛かったが、ヲタは口にはしなかった。「――ずいぶん、いろんな、トレーニング方法……知って、るんだ、な……」
 髪とジャージが汚れるのもどうでもよく、ヲタは境内の石畳の上に寝転がった。やっと終わったという開放感が、茜空に染まった雲をより美しく見せてくれた。
 だるまはヲタに寄り添うように寝転がった。頭の後ろで手を組み、ヲタと同じように空を見上げた。「シブヤと戦う前に特訓したとき、バカはバカなりにいろいろ調べたんや。こんなかたちで役に立つとは思えへんかったけどな」
 「シブヤに、礼、言わねぇと、な……」
 「ホンマや。今のオレとおまえがここにいるのは、ある意味、シブヤのおかげかもしれへんな」
 「あと……プリクラにも……」
 「せやな。オレにとってのシブヤが、お前にとってのプリクラや」
 風が気持ちよく吹き、カラスの声がした。
 今まで感じたことのない気持ちに、ヲタは泣き出したくなるような衝動を覚えた。
 胸の奥からゆっくりと押し寄せてくる感情の波が喉元までやってきた。プリクラに負けたときに感じたものとは、似ているがちがう感情だった。
 二人はしばらく言葉を交わさず、夕闇の迫る空を眺めていた。今日の夕焼けは格別に美しかった。ゆったりと流れる雲と、ときどき視界に現れる鳥と、空の橙色のすべてが愛しく思えた。
 たった十七年とはいえ、やさぐれた人生を送ってきたヲタは、たかが夕焼けを美しいと思ったことに驚いた。こんな景色は今まで何度も見た。しかし、こんな気持ちになったのは初めてだった。
 チームホルモンのみんなに会いたかった。
 そして、夕焼けはこんなにきれいなんだと伝えたかった。
 「――さっ……」だるまが立ち上がった。「それじゃあ、今日、最後のメニューや」
 「今度はなんだ?」
 ヲタも続こうとしたが、体の節々に痛みが走った。すると、だるまが手を差し伸べてきた。ヲタはそれにつかまり、ゆっくりと立ち上がった。
 「これから銭湯行って、疲れた筋肉をほぐすんや。そうせんと、明日は今日よりキツいで」
 「てことは、また階段か」
 「銭湯に行くときも一回にカウントするで。もう九回やったから、今日はそれでノルマ達成や。おめでとな」


 銭湯の湯は熱かったが、それでも疲労困憊した体にはほどよく刺激的だった。
 頭まで沈むと気持ちよかった。循環器のボゴボゴという音はうるさいものの、リアルな世界からトリップしたような感じがする。水中がそういうものだとは知らなかった。これも特訓の成果のひとつと言えるかもしれない。
 限界まで沈んでみよう、と思った。少しでも長く水中にいたかった。
 だが、三十秒と持たず、ヲタはお湯から顔を出した。
 激しく息を吸い込むヲタに、だるまが言った。「なんや。生きとったんか。死んだと思ったで」
 「銭湯なんかで死んでたまるかよ」ヲタは顔にまとわりつくお湯を手で拭った。
 「遊んでないで、ちゃんと体を揉んどくんや。特に脚が一番疲れとるやろうから」
 ヲタは言われたとおり、ふくらはぎや太ももの内側を揉んだ。
 いつもはぷよぷよとした感触だが、今日はガチガチに硬くなったふくらはぎを、ヲタはゆっくりと揉み解した。特に間接のあたりをさわると、痛いが気持ちいい。
 銭湯はそれほど混んでおらず、客は二人を含んでも十人に満たなかった。今はヲタとだるま以外、浴槽に入っていない。
 だるまは長い髪の毛を後頭部のあたりで盛っていて、不思議と「女の子」らしく見えた。
 「それにしても……お前……胸、ないなぁ……」いつのまにかヲタの胸を注視していただるまが、通夜で遺族に挨拶をするような口調で言った。
 「――はあ? なんだと、てめえ?」
 ヲタは反射的にねむを手で隠した。
 ヲタが自分の体でもっともコンプレックスを持っているのが胸だった。小学校を卒業してからも身長は伸び続けたが、胸だけが成長を止めたように発育していない。年齢的にそろそろ第二次成長も終わる時期だろう。ということは、胸のふくらみ度合いはこれで完成ということなのか。
 一方、だるまは体格同様、胸も大きい。正直、うらやましかった。
 「てめえがちょっと大きいからって人を見下しやがって……」
 「そんなことあらへん。ただ、気の毒やなぁっ……てな」だるまはにやにやしていた。
 「やっぱりバカにしてんだろ……でもな、もうじき大きくなってくるはずなんだ」
 「なんの根拠があって……」
 「毎日豆乳飲んでるからな」
 「アホか。豆乳で胸が大きくなるわけないやろ」
 「グラビアアイドルがテレビで言ってたぜ」
 「そんなん、そう思いこんどるだけや。オレ、豆乳嫌いやで」
 「そうなのか?」
 「豆乳より鶏肉や」
 「そういや、おめえ、いつも手羽先食ってんな」
 「関係あるかどうかは知らんけどな」だるまは笑った。「ま、そんなこと気にせんでもええ。男がみんな胸の大きい女が好きなわけやあらへん」
 「そうなのか?」
 「そうやで。そういうのはそういうので需要はあるんや」
 「そういうのって……おめえ、やっぱりバカにしてんだろ」
 「お前は胸は小さいけど、脚はきれいやないか」
 「そうか……?」
 自慢に思っている脚を褒められて、ヲタは照れた。
 「そうや。人間、なんかしら取り柄があるもんやな」だるまはにやりと笑った。「だから欠点を気にしてもしゃあない。取り柄を伸ばすことを考えたほうがええで。逆立ちしたって、オレらはあつ姐みたいにはなれんのやから」
 それはそうだろう、とヲタは思う。
 ヲタが特訓をしているのは、今より強い自分になりたいからだ。前田より強くなりたいわけではない。前田は前田。自分は自分だ。それでいい。
 ヲタはふくらはぎを揉みながら、そんなことを考えた。


 日が落ちた神社の境内は、柵の四隅にある白熱灯に照らされているだけで、異様な雰囲気に包まれていた。注連縄の巻かれた御神木は闇夜でもぞもぞと動いているように見えたし、夜空に聳え立つ拝殿と本殿は昼間よりも大きく見える。
 今日、十度目となる階段昇降は、あまり辛くなかった。銭湯でのマッサージが効いたのか、あるいはヲタの気持ちそのものの変化なのかはわからなかったが。
 白熱灯と、だるまの懐中電灯の光を頼りに、二人は拝殿に向かった。その裏側の廊下の上に置いたバッグの中から寝袋を取り出し、睡眠の準備をした。
 二度目の野宿となるだるまは慣れたもので、てきぱきと寝袋を広げ、一人で中に潜り込んでしまった。
 ヲタは寝袋の、入る口がわからず焦った。そうしていると、闇の中でなにかが蠢いている気配がして、ヲタは恐怖を感じた。それから逃れようと、ヲタは急いで寝袋のファスナーを探した。
 ――絶対なんかいるよ……。
 ファスナーの取っ手がなかなか見つからず、ヲタは焦りに焦った。小心者の例に漏れず、そうすればそうするほどファスナーは見つからない。
 そんなヲタの焦りを見えていないのか、だるまが寝袋にくるまったまま言った。「今日はもう仕舞いや。ゆっくり休め。んで、明日は日の出とともに起きてランニングからや。ええな」
 「あ。ああ……。いいけど……」
 「けど、なんや?」
 「怖えぇんだよ。ここ……。なんかいるだろ」
 「なにを怖がっとるんや。ここは神社やで。いるとしたら神さんだけや。神さんやったら怖くないやろ」
 「そういうんじゃなくて……」
 「ええから、さっさと袋の中に入れや」
 「ファスナーが見つからねぇんだよ」
 「落ち着いて探せばええやろ……」
 ヲタは一度寝袋をきちんと拝殿の廊下に広げてみた。おどろくほど簡単に、ファスナーは見つかった。中に入ると、独特の温もりが体を包んでくる。少し寒い夜に、寝袋の中の温度と湿度はちょうどよかった。
 背中に寝袋の感触が伝わってくるのも安心できた。背中が、がら空きになったままなのはどことなく怖かったから、この密着感はありがたかった。
 今日一日のことを回想する。BGMは、どこかから聞こえる虫とカエルのアンサンブルだ。
 元ブルーローズの三人。ノンティが語ってくれたマジ女の知られざる歴史。三人に会えたのは運命のようなものなのかもしれないとさえ思う。地獄の責め苦に感じた階段上り下り。肉体改造のためのストレッチやトレーニング。熱い銭湯の湯船。
 いろんなことがあった今日一日で、自分は変われただろうか……。
 答えはわからない。でも、手ごたえはある。
 明日はちがった気持ちで目覚められそうな気がする。
 「なあ、だるま……。眠っちまったか……?」
 ややあって、小さな声がした。「ん……。なんや?」
 「ごめん、起こしちまったか」
 「かまへん。それより、なんや?」
 「今日は一日、ありがとう」
 「かまへんよ」
 「おまえがいなかったら、おれ、今頃とっくに家に帰ってると思う」
 「オレはお前の心に電池を入れただけや。動くのはお前やで」
 「ああ。しっかり入ったぜ、だるま」
 「そしたら、今はスイッチ切れや。明日、また入れればええ。おやすみ、や」
 「そうだな。おやすみ……」
 目を閉じてもすぐには眠れなかったが、こんな夜も悪くないとヲタは思った。




 【つづく】
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 スカートが完全に水没せずに、空気が入ってしまった背後のほうだけ浮いています。この感じ、すごくいいですね。濡れフェチ的にも、濡れた生地のテカりとか空気感があるし、スカート好きとしても想像力をかきたてられます。
 濡れたスカートを絞る仕草もかわいいですね。太ももが少しだけ露わになるのもいい。

 これでこの衣装のサンプルはおしまいです。
 以下のサイトでダウンロード販売していますので、よろしかったら買ってください(笑)。

 
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 上半身までどっぷりと浸かってくれた陸遊馬さん。かっちりとしたデザインの服は濡れると映えますね。
 水中でのスカートは、ほどよい広がりをしてくれて、脚をより魅力的に見せてくれます。
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 いよいよ入浴です。
 今回は空の浴槽に、少しずつお湯を入れていきました。何度見ても、スカートが水中に広がる様子はフェテッシュです。着衣入浴好きの女性に話を聞くと、女性もスカートが広がっていく様子は楽しいそうです。
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 ローションを本格的に衣装に垂らすと、とんでもなくアダルトな雰囲気になるから不思議です(笑)。本当はこのくだり、写真集ではけっこうたくさん入っているのですが、サンプルではこのくらいにしておきます。
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 新作とは言っても撮ったのは去年の11月ですが……。作業、遅くてごめんなさい。特にモデルをやっていただいた陸遊馬さんにはいろいろとご面倒かけてしまっていて申し訳ないです。

 衣装は『ヴァンパイア騎士』の私立黒主学園の夜間部制服です。
 黒地だったので、白濁ローションを垂らしてみました(笑)。やっぱり黒に白は映えますね~。

 今回のサンプル画像は、ちょっと多めの枚数を公開します。ブログ書いたり映画見たりばっかりで、全然サイトを更新してないお詫びです。
 ただいま編集中なのですが、終わり次第、いつも通りDL.Getchu.comでダウンロード販売いたします。気に入ったら買ってください。また告知します。

競馬の本、出ました!!!

 10, 2010 04:33
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 来月から始まるG1レースの予想のお供に、ぜひ本書をお使いください。
 簡単に使えて役に立つデータを厳選しました。年二回の刊行が続いている事実こそ、信頼の証です。……自分で言うのは照れますが(笑)。

2010年8月に見た映画。

 08, 2010 05:46
 ■映画(新作)■
  『必死剣鳥刺し』
  『ぼくのエリ 200歳の少女』
  『シュアリー・サムデイ』
  『ソルト』
  『仮面ライダーW FOREVER AtoZ 運命のガイアメモリ』
  『天装戦隊ゴセイジャー エピックON THEムービー』
  『ベストキッド』
  『キャタピラー』
  『カラフル』

 ■映画(旧作)■
  『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』

 ■新作順位■
  1『ぼくのエリ 200歳の少女』
  2『息もできない』
  3『第9地区』
  4『(500)日のサマー』
  5『ボーイズ・オン・ザ・ラン』
  6『ブルーノ』
  7『ヒーローショー』
  8『アイアンマン2』
  9『ハート・ロッカー』
  10『クロッシング』
  11『川の底からこんにちは』
  12『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』
  13『私の優しくない先輩』
  14『アウトレイジ』
  15『ラブリーボーン』
  16『インビクタス』
  17『渇き』
  18『プリンセスと魔法のキス』
  19『トイ・ストーリー3』
  20『プレシャス』
  21『シャーロックホームズ』
  22『インセプション』
  23『仮面ライダーW FOREVER AtoZ 運命のガイアメモリ』
  24『カラフル』
  25『アリス・イン・ワンダーランド』
  26『ベストキッド』
  27『涼宮ハルヒの消失』
  28『コララインと魔法のボタン』
  29『すべて彼女のために』
  30『マイレージ・マイライフ』
  31『必死剣鳥刺し』
  32『ゼブラーマン2』
  33『キャタピラー』
  34『戦闘少女 血の鉄仮面伝説』
  35『時をかける少女』
  36『ソルト』
  37『パレード』
  38『シャネル&ストラヴィンスキー』
  39『サロゲート』
  40『ウルフマン』
  41『武士道シックスティーン』
  42『書道ガールズ!』
  43『シュアリー・サムデイ』
  44『ニューヨーク、アイラブユー』
  45『パーフェクト・ゲッタウェイ』
  46『シャッターアイランド』
  47『かいじゅうたちのいるところ』
  48『天装戦隊ゴセイジャー エピックON THEムービー』
  49『ACASIA』
  50『告白』
  51『食堂かたつむり』
  52『矢島美容室THE MOVIE 夢をつかまえネバダ』
  53『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』

 8月はけっこう順位が変わった。
 中でも、なんといっても『ぼくのエリ 200歳の少女』はすばらしかった。ストーリー、役者、演出、どれをとっても文句のつけようのない作品だった。特に印象的なのは、おそらくは単焦点レンズを使った映像の美しさだ。こんなにボケを多用し、それが少しも嫌味にならず演出として機能している映画は珍しいのではないか。静かに進行する物語と見事に調和している。役者陣もすばらしい。特に主人公の二人は最高。子供店長と全然ちがうよ(比べるな)。ぼくは上映後に、打ちひしがれたような気持ちになる映画が好きなんだけど、これはまさにそういう一本だった。見た人ならわかると思うけど、あのプールのシーン!!! 映画を見ていて恐怖を感じたのは久しぶりかも。ただひとつ文句を言いたいのは、あのボカシ(?)。日本の性描写規制の弊害もいいところ。あれをちゃんと見せないと物語の解釈がちがってしまうのだ。せっかく張った伏線が死んでしまうし。ネタバレになるからこれ以上は書かないけど、あれに修正を加える決定をした連中は、万死に値すると思うよ、ホント。とはいえそれは作品の責任ではないので、未見の方はぜひ!!! 原作も読んだけど映画のほうが無駄がないので、見たあとで読んだほうがいいと思います。
 『必死剣鳥刺し』は意外に面白かった。ただ、豊川悦司がなぜ妾を殺したのかの説得力がイマイチないのと、池脇千鶴がおっぱいを見せまいとしている演技に興ざめした。池脇千鶴は寺島しのぶを見習え。
 『シュアリー・サムデイ』は「うーん……」って感じ。小栗旬は映画が好きなんだなぁ、という気持ちは伝わってくるので不快な感じはしないけど、ダメ映画であることはまちがいない。『告白』や『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』のときにも書いたけど、安易に爆弾出しすぎ。宇多丸も言っていたが、爆弾を作るときにもっとも大変なのは爆薬をどこで調達するか、ということなのに、それをまったく描かない。まさか花火の火薬を集めればできるとか思ってんじゃないだろうな? とにかく素人が簡単に爆弾作りすぎ。これから製造過程をちゃんと描かない、素人の作った爆弾が出てくる作品があったら、無条件でワースト候補に入れます。ま、おれがワーストにしたってなんの影響力もないんだが。
 『ソルト』はよく考えるとシナリオがめちゃくちゃ。それでもジョリ姉の魅力だけで見ている間は楽しめる。ジョリ姉って写真で見るとブサイクなんだけど、スクリーンで動いているとなぜあんなに美しいのだろう。パンツを脱いで監視カメラに被せるシーンはエロかった。
 『仮面ライダーW FOREVER AtoZ 運命のガイアメモリ』は宇多丸が号泣したと絶賛していたが、おれはそれほどとは思わなかった(笑)。テレビ版とさほど変わらない演出が気になったし。とはいえ、ライダーシリーズの劇場版としては最高の出来であることにはちがいない。アクションシーンもよかったし(そこだけはテレビ版よりも格段上)、八代みなせの太ももも「挟まれたい」願望を満たしてくれた(それはお前だけ)。
 比べて『天装戦隊ゴセイジャー エピックON THEムービー』はテレビ版そのもの。なんにも面白くない。でも戦闘シーンをスクリーンで見られるのはチビッ子にはいいのかな。磯山さやかもエロくなかったし。もっとエロく撮ってほしいよ、せっかく磯山なのに。『W』の八代みなせみたいに太もも全開にしろっての!!!
 『ベストキッド』はなんの期待もしてなかったからか、これもけっこう楽しめた。上映時間があと30分短ければもっとすばらしかったのに。過去作の『ベストキッド』は見てないんだけど、王道の物語ってアガるね。それだけにクライマックスがゲーム的な演出になっていたのが残念。あと、この映画だけじゃないんだが、以前から気になっていたことがある。なにかというと、劇中で撮っている映像が観客の見ている映画としての映像と同じじゃないか問題。たとえば怪獣映画でよくあるんだけど、怪獣が現れる映像が劇中でも使いまわされていたりする。それっておかしいでしょう。じゃあ、おれらはテレビのカメラマンが撮った映像を見させられていたわけ? だとしたら、それとわかるようにしてほしいんだけど……。こっちはそういうものじゃないという前提で見ているわけなんだから。この『ベストキッド』もクライマックスにそういうシーンがあって、そこはかなり冷めてしまった。ちゃんと手間かけてほしい。でも、ウィル・スミスの子供はちゃんと説得力のある体を作っていて、ただの七光りではないことを見せつけていたし、怖いから戦うんだというセリフには感涙しましたよ。
 『キャタピラー』では、この時代にこれほどわかりやすい左翼思想を語れることに驚いた。両手足を失くした男に戦争を重ね合わせるのはあまりにもストレートすぎない? 戦争がそれほど悲惨で野蛮なものなら、なぜ人間はいまだに戦争を続けているのか。左翼的思想の限界がここにあるなあと思った。字幕が多いのも閉口する。映画で字幕を入れるなら映像である意味がないじゃん、と思ってしまう。あと、寺島しのぶは全裸になるけどエロくはない。むしろ怖い。けど、拘束されて女に性的にもてあそばれるというのは憧れのシチュではあるが(笑)。
 『カラフル』はアニメとしての質はいいと思うんだけど(とはいえ、本職の尾久セントラルくんから見ると、あちこち不出来な箇所があるそうだが)、話が浅い。個人的な好みだけど、死んだあとで生まれ変わるって物語、嫌いなんだよな、おれ(笑)。それ、なにが面白いんだろう、と思ってしまう。自殺はいけない、というのもメッセージとしてはわかる。人は一人で生きているのではなく、家族や友人といった現在の横軸と、世田谷線のエピソードに象徴される歴史という縦軸の繋がりに支えられている、というのもその通りだと思う。けど、自殺してしまう人は、その繋がりがあるからこそ絶ちたいと考えるのでは? だとすると、説得力がないのではないだろうか。それをわかって、大切にしたいと思っている人は自殺しない。だからやっぱり、浅い考えといわざるを得ないんだよなぁ……。
 というわけで長くなったので、もうおしまい。あ。あと、『告白』は順位を下げました(笑)。ホントはワーストにしたいけど、『かたつむり』と『矢島美容室』と『踊る大捜査線』が強すぎ。

七冊目の競馬の本。

 04, 2010 07:42
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新刊、できました!
来週中には全国の本屋さんで買えるようになるはずです。
今度こそ、たくさん売れてほしい!

■競馬G1レースお宝付き大予想 2010 PART2
 上戸ともひこ・著/ベストブック社刊/定価1200円+税

BBQで出会った人。

 01, 2010 06:11
 まだ一週間ちょっとしか経ってないのに、遠い昔のような記憶になっている、奥多摩BBQ。
 そこでお会いした人の中に、藤村卓也さんという方がいる。
 きっかけは、BBQでみんなが持ち寄ったお酒の中に、「タクシードライバー」というラベルが貼られた日本酒を、おれが見つけたことだった。
 日本酒に「タクシードライバー」? それって映画の『タクシードライバー』……? よく見ると、デニーロらしき男の顔写真まである。面白いので写真を撮ったら、声をかけてきたのが藤村さんだった。
 なんと、この日本酒を造った会社の社長さんだったのだ。
 そこで少しお話をしたら、ラベルはあの高橋ヨシキさんがデザインしたもので『映画秘宝』にも載ったということや(毎月、尾久セントラルくんに借りて読んでいるのに気づかなかった)、岩手に会社があることや、おれがそのとき着ていたTシャツ(ハードコアチョコレート)のブランドからTシャツを出していることや、『タマフル』を知っていることなどを教えてもらった。
 日本酒という伝統的なものに、『タクシードライバー』という名前をつけるセンスはすばらしいと思う。面白くもなんともなかったけど、戦艦のデザインだけはかっこよかった『宇宙戦艦ヤマト復活篇』に出てきた「信濃」という船に感じでデカく「信濃」と書かれている、みたいな感じ?(わかんねぇよ、それ)
 おれは残念ながら日本酒は呑めないので(ビール、サワー、チューハイくらいしか……)、『タクシードライバー』は味わえなかったけれど、興味のある方はぜひお買い求めください。

 喜久盛酒造

 このサイトを見ると、「日本酒に『タクシードライバー』」的なことをいろいろとされている会社のようだ。リミックスのCDまで出していたり、藤村さんご自身もインディーズの映画に出られている(三島由紀夫役!!!)。面白いことをする人というのは、いろんなところにいるものだ。
 世界は広大だ、と本当に感じました。

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