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『マジすか学園vsありえね女子高 AKB48×アイドリング!!!』 第74話

 26, 2014 23:16
 ■決戦―10■



 廊下と階段を自在に飛び交い、生徒たちを恐怖とパニックに陥らせていた鳥たちの動きが、一斉に――まるで電池が切れたかのようにおとなしくなった、その瞬間をバンジーは見ていた。
 廊下の天井付近を、バサバサと大げさに羽ばたいて飛んでいたカラスも、狂ったように翼を上下し、羽をあちこちに散乱していたハトも、統制なく飛び回り、そこら中にぶつかっては床に落ちたスズメも、その動きを止め、すーっと音もなく滑空し始めた。割れた窓を見つけた鳥は、そこから外へと
 いったい、鳥たちになにが起きていたのか、あるいはこれからなにかが起きようとしているのか、バンジーにはまったく見当がつかなかったが、事態が推移しようとしていることはまちがいないなさそうだった。
 回りにいる生徒たちもざわつき始めた。鳥嫌いの連中も、鳥たちが不気味な鳴き声を上げなくなったことで、少しずつ冷静さを取り戻しつつあるようだった。
 生徒たちの動きを制したいバンジーたちにとっては歓迎するべき変化だが、まだ油断はできない。バンジーはかたわらにいたウナギに言った。「なんだかわかんねぇが静かになったな……でも、気を抜くなよ」
 「ああ。わかってる」ウナギは頷いた。
 いま二階の廊下には、バンジーたちの他に三十人ほどの生徒たちしか残っていなかった。《純情堕天使》の指揮下にあった生徒は百人以上はいたはずだから、西側に配置されているプリクラたちの元も同じような《被害》を受けたのだとしたら、同等の戦力しか残っていないかもしれない。となると、約三分の一が負傷、あるいはそれらの生徒を体育館に運び込む役割を担ったことになる。
 バンジーがやるべきことは指揮下にある生徒たちの士気をこれ以上低下させないことと、部隊の再編成だった。しかし、自分にそんなことができるのだろうか。ダチひとり、救えなかった自分に――。
 「バンジー」アキチャに声をかけられ、バンジーはハッとしたように顔を向けた。
 「どうした?」
 「とりあえず一階に戻ろう。あたしはプリクラのところに行って指示をもらってくる」
 「そうだな、それがいい」バンジーはアキチャの肩を軽く叩いた。「頼んだぞ」
 アキチャはバンジーに向けて親指を立てると、廊下を小走りで駆けていった。


 体育館へと通じる重い扉の前で腕組みをしているチョウコクは、飛び交っていた鳥たちの動きが突然おとなしくなった瞬間を見つめても、特に反応はしなかった。世の中にはバカげたことがたくさん起きる。その理由なんて考えても仕方ないし、ひとつひとつに関わったところで時間の無駄だ。このけたたましい騒ぎになにかの理屈があろうと、それを自分が知る必要はない。知ったところでチョウコクの人生になんの影響ももたらさない。
 もちろん、こんな騒ぎは、これから派手な祭りの余興としても歓迎すべきことではないし、迷惑だった。なによりも戦力が削がれてしまったことにチョウコクは腹を立てていた。自分が背にしている扉は、まだ本格的な戦いの前だというのに何度も開かれ、負傷した生徒たちが何十人と体育館へ運び込まれた。これで生徒会の立案した作戦は初っ端から変更を余儀なくされるだろう。もっともすべてが作戦通りにいく戦いなど、チョウコクの知る限り一度もありはしなかったが。
 「鳥が……」かたわらの学ランが天井を見上げ、つぶやいた。
 「瑣末なことだ」
 「ふん……」学ランは笑った。「あんたらしいな」
 「とはいえ、たかが鳥ごときに大騒ぎした結果がこのざまだ」チョウコクは顎で扉の向こうの体育館を示した。「結果は瑣末なことじゃない」
 いま、鳥たちはほとんどが校舎の中から外へと飛んで行った。それでも取り残された数羽はまだ廊下の天井付近を宛てもなく飛んでいる。
 そして床には鳥の死骸が散乱していた。抜け落ちた無数の羽、ちぎれた脚、踏み潰れた頭や体の一部、飛び散った血……。廊下の床にはあちこちに血溜まりを踏んだ靴底が滑った跡が残されていた。
 《無惨なことをする……》
 チョウコクは怒りよりも憐れみを感じた。
 それを感じ取ったのか、学ランも渋い顔になった。「どうするつもりだ」
 「指示を待つ」
 「打って出ねえのか」学ランが、今度は不満そうな表情を浮かべた。「推測でしかねえけど、この鳥の大騒ぎにはアリ女の連中が絡んでいるにちがいねえ。どんな方法でこんなことをしでかしたのかまではわからねえが。で、それが収まったってことは、いよいよあいつらが来るってことだ。それでも指示を待つのか」
 「今回は、生徒会の指揮に従うと決めたからな」
 「堅てぇんだな」
 「私は功績を上げたいわけじゃない。少しでも、この学園に恩返しがしたいだけなんだ」
 「――前田、か……」
 もし前田敦子と拳を交わさなかったら、もし前田敦子の生き様を目にしなかったら――チョウコクは今回の戦いに参加しなかっただろう。クールを気取り、遠くから部外者のようにみんなを見ているだけだったにちがいない。
 自分は、学ランとはちがった意味で前田敦子に惚れているのかもしれない――とチョウコクは思う。あの小さな体しか持たない女に教えられたことは数多い。
 「あいつはおれが惚れた女だ。あんたが同じ気持ちになっても不思議はない」
 「嫉妬しないのか」
 「そういうんじゃねえよ、あいつへの気持ちは……」学ランはどこか寂しげな表情になった。「あいつは人を惹きつけちまうんだ。それをおれがどうこうできるわけもないし、したいとも思わねえ。それに――いや、なんでもねえ」
 ふと、学ランの小さく端正な顔に陰りが見えた気がした。
 「どうした――水臭いな」無理に聞き出そうとは思わないが、いままで見たことのない表情の学ランに、チョウコクは尋常ならざるものを感じた。「話したいことがあるなら聴くぜ。こんなときだからこそ、言えることもあるんじゃねえか」
 「――ああ、たしかにな……そうかもしれねえ」学ランは、今はもう鳥のいない天井を見上げた。「――名古屋に行くんだ。親の仕事の都合でね。この学園とは今学期でお別れだ」
 「いつ決まったんだ?」
 「二三日前だ。突然で、なにもオレに相談はない。それどころか、電話で知らされたんだ。こんな大事な話なのに……」
 ひどい話だ――と言おうとして、チョウコクは思いとどまった。いくらそうだとしても、ダチの親を悪く言いたくない。
 かといって、黙っているのもどうかと思い、チョウコクは低く「ああ……」と頷いた。
 「まあ、おれにはもう、どうしようもないことだし、あんたも今年でこの学園を卒業するしな、未練はねえよ。けど……あいつのことは心配だ」
 「大丈夫さ。あいつは強い女だ」
 チョウコクがそう言ったとき、体育館へ通じる扉が、外側からゆっくりと開いた。
 現れたのはネズミだった。
 チョウコクはこの女が嫌いだった。アダ名の通り、ちょこまかと動きまわり、その理由もわからない。どうせろくでもないことを考えているのにちがいないが、尻尾をつかませないずる賢さが余計に腹が立つ。そうならないための唯一の方法は、関わらないことだ。
 だからチョウコクは、ネズミのやや焦ったような表情を見ても、感情を動かさなかった。どこに行くつもりかは知らないが、それはチョウコクには関係のない場所にちがいなかった。
 チョウコクも学ランも、ネズミには声をかけなかった。ネズミは二人を交互に見ると、したかどうかもわからないくらい小さな会釈をして、廊下の向こうにある階段を登っていった。
 「――ま。そんなわけでだ……」なにかを吹っ切るように、学ランは言った。「今日は、暴れ納めとでも言うべきかな。派手にやらせてもらおうぜ」
 学ランは顔より少し高い位置まで右手を上げた。
 チョウコクはその意味に困惑したが、やがてそれに思い当たり、少し照れた笑みを浮かべてハイタッチをした。


 セーラー服の上から、背中に龍と富士と花が刺繍されたダークグリーンのスカジャンを着た少女は丘の上で足を止め、遥か向こうにある馬路須加女学園を見つめた。
 この小さな丘は、少女の自宅から学園へと向かう通学路だった。毎日ここから学園を見て、ゆっくりと歩いて行くのが日課になっている。しかし、ここ十日間ほどは自宅と優子が入院している病院を行ったり来たりする毎日で、この丘からの眺めは久しぶりのものだった。進級への成績が足りず、今度の補修テストで赤点を取ったら、留年することになってしまうため、勉強を優子に見てもらっていたのだ。出席日数はぎりぎり足りていた。優子のおかげで、なんとか最低限の理解はできた。あとは来週のあたまにあるテストで合格すればいい。
 本当は、留年しようが進級しようが、どうでもよかった。それでも苦手で大嫌いな勉強をしたのは優子が望んだからだ。テキストを理解し、問題を解き、正解を出すと、優子はとても喜んでくれた。
 優子とのキスもクンニも好きだったが、いちばん好きなのは、柔らかくて大きな優子の胸に顔をうずめ、頭をなでなでしてもらうことだった。あれほど幸せな時間はない。優子の慈愛に満ちた抱擁に包まれると、少女は心の底から落ち着いた。優子の胸は、少女の遠い昔の記憶を呼び覚ます。まだ言葉も覚えていなかったころに授乳をしてくれた母親――そしていまはいない、その存在を。
 今朝、その優子から電話があった。
 「学園に来いよ」優子の声はなぜか興奮していた。「ひさしぶりの祭りだ。相手を殺さない限り、好きに暴れていい」
 《相手》がだれを指すのかはよくわからなかったが、暴れていいことだけははっきりと理解できた。前田敦子とのタイマンから、しばらく拳を使っていなかった。ケンカよりも勉強を優先しなくてはいけなかったからだ。
 でも優子は言った――暴れていい、と。
 少女は馬路須加女学園から視線を移し、丘の向こうへと続く道を見た。
 《殺さない限り、なにをしてもいい》――なんて素敵な言葉なんだろう。
 少女は指の爪を噛みながら、フフフと笑い、再び歩き出した。
 


  【つづく】

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