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札幌・小樽旅行記その12。

 18, 2006 22:16
 旅先での、ひと時のロマンスに別れを告げ、おれは小樽運河を目指して国道沿いを歩いた。
 時間はそろそろ三時半を過ぎていた。そろそろエリザベス女王杯の出走時間だ。この旅行記の7にも書いたが、おれは競馬はできるだけリアルタイムで見たいのだ。なにしろ『濡れ娘。』の撮影中でも、出走時刻になるとカメラを一旦止めるくらいだ(自慢できることじゃねぇだろ)。そのくらいリアルタイムにはこだわっているのである。
 しかし今日は旅行中。ウインズ小樽はない。「グリーンチャンネル放送中」と看板を出している喫茶店もない。テレビを見られる場所はないのだ。さすがのおれも、今年のエリザベス女王杯は家に帰ってから、タイマー予約しておいた録画で見るしかない、とあきらめていた。
だから、
レースの結果は家につくまで絶対に知りたくなかった
 おれは携帯電話の時計表示を見ながら、「ああ、いまごろはファンフアーレが鳴っているころだろうなぁ……」と、感慨に耽った。みんなは「寒い」を連発していたが、おれの心は遠く離れた京都淀の競馬場に飛んでいたので寒くなかった。
 おれの心の中では◎スイープトウショウが最後の直線で、最後方から大外を回って突っ込んできていた。「差せーっ」と、心の中で声をあげた……しかし、所詮は妄想でしかない。
 せっかく港町の風情いっぱいの小樽に来たのだ、競馬のことなど忘れ、この風景を心に焼き付けておこう……と、気分転換をした、その瞬間、

 スイープトウショウの勝負服を着た池添騎手が、馬の背でガッツポーズをしているテレビ画面が、おれの視界に映し出されたのだ!

 「ああ!」
 おれは大声を上げてしまった。みんなが、どうした、と振り返った。
 テレビは土産物屋の中に設置されていて、それがこともあろうに外に画面を向けているのである。まるで、おれに見ろ、と言わんばかりに。
 池添がガッツポーズをしているということは、スイープトウショウが勝ったということか……。そ、そうか、そうなら嬉しい。しかし……。
 おれは事態を把握しつつ、みんなにあれを見てくれ、と伝えた。馬券を買ったHもNも、リアルタイムで中継を見る、ということにはさほどこだわっていない。さっきも、別のレースの結果を携帯電話で調べていたくらいだ。だからエリザベス女王杯のレースを見る前に結果を知ってしまったことをがっくりしているのは、おれだけなのだ。
 もう、こうなったら見てしまえ、配当も出るだろう、と、おれはみんなと一緒に土産物屋に入った。テレビの中ではレースのリプレイが流れていた。スイープトウショウはおれの予想通り、大外を強襲し、信じられない鬼脚で勝った。ああ、本当にリアルタイムで見たかった。きっと、ハラハラドキドキできただろう。その結果、自分の◎が勝ったのならば、こんなに嬉しいことはない。
 せめて、あと3分、この土産物屋の前を早く通っていれば……。それならきっと、店内で最初からレースを見られたのに……。おれはテレビを探すべきだったのだ。別室送りになっても最後の最後まであきらめなかったカイジのように。
 自分の本命馬が勝ったというのに、嬉しいんだか嬉しくないんだか、複雑な気持ちになった。馬券を的中させて、素直に喜べなかったのは、これがはじめてである。

 結局、スイープトウショウの単勝配当は280円。ワイドはハズれたが、おいしい馬券だった。

 儲かったのに失意のまま、おれは出抜小路をぶらついた。火の見やぐらでカップルに記念写真を頼まれ撮ってあげたり(彼氏に渡されたデジカメは、その場で撮るには露出が少なかったしホワイトバランスも狂っていたので、ちゃんと合わせた。えらいな、おれ)、コロッケを食べたりした。
 それから、運河の入り口に行き、写真を撮った。

 いま見ると、気の抜けた写真だ。なんの工夫もしていない。やはり、写真には撮影者の心が写るのである。

 これが世に言う「エリザベス女王杯の悲劇」のすべてである。

  ■教訓:あきらめるな。競馬中継はどこかで見られる。

  【つづく・次回は感動の最終話】

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